
「日本の縮図」豊田市が仕掛ける官民共創
行政の“当たり前”を疑い、地方の未来を書き換える
愛知県豊田市。世界を牽引する自動車産業の集積地でありながら、市域の7割を豊かな山間部が占めるこの街は、まさに「日本の縮図」そのものです。この多様なフィールドを背景に、東京を拠点としてこれまでの自治体の常識を覆す挑戦を始めているのが、豊田市東京事務所長の橋本一磨氏。税務・福祉という、市民の生活に直結する現場の最前線でキャリアを積んだ橋本氏が目指すのは、行政が抱えるリアルな課題をさらけ出し、民間と対等な目線で未来を共につくる「官民共創」の形です。現場を知るからこそ語れる、本質的なイノベーションの姿を伺いました。

東京事務所
所長
〈1〉住民の生活に寄り添い続けた「現場」のキャリア
財政部門や企画部門、秘書部門といった部署の出身者が多い傾向にある東京事務所において、橋本氏は14年もの間、市民生活や社会の複雑な課題と直接向き合う現場の最前線に身を置いてきた異色のキャリアの持ち主です。
橋本(以下、「橋」):
「私は、税金の滞納整理や生活困窮者支援といった、市民の方々の生活に深く関わる現場を歩んできました。そこでは、画一的な行政のルールだけでは解決できない、複雑で多様な悩みを抱える住民と正面から向き合うことが日常でした。この現場の経験を通じて積み重ねてきた『現場のリアルな痛み』こそが、私の最大の強みです。行政が机上で作成した仕様書の通りに動くだけでは、もはや目の前の課題は解決できない。その限界を肌身で感じてきたからこそ、民間の皆さんの新しいアイデアや技術を、どう現場の力に変えられるかを考えられるのだと思っています」
現場のリアルを知るからこそ、新たなアイデアや提案が実際の暮らしにどう寄与するのかを常に問い続けながら、官民共創を進めています。

〈2〉「日本の縮図」としての豊田市
人口の約95%が集中する都市部と、広大な山間部。この二つの顔を持つ都市構造は、豊田市が「日本の縮図」と呼ばれる所以です。
橋:
「豊田市は面積の3割が都市部、7割が山間部という構造。私の地元は山間部の足助(あすけ)地区という場所で、もともと不便な土地柄ですが、近年はバス便の縮小も行われるなど、人口減少や高齢化という波が、かつての当たり前を維持することを難しくさせています。しかし、これは豊田市だけの問題ではなく、日本中の多くの地方自治体が直面している、あるいはこれから直面する課題でもあります。つまり、豊田市というフィールドで解決策を見出すことは、日本全体の課題解決に直結するということ。私たちは単に市の課題を解決したいだけでなく、豊田市を『社会実装の舞台』として開放し、民間と共に新しい社会モデルを作りたいと考えています」
〈3〉「連携」から「共創」へ
──目線を合わせることから始まる変革
これまで、行政と民間の関係は「発注者」と「受注者」という上下関係に縛られることが一般的でした。橋本氏は、この旧来の「官民連携」の枠組みを打ち破り、対等なパートナーシップとしての「官民共創」を掲げています。
橋:
「これまでの行政は、自分たちで正解を決めて仕様書を作り、それを民間に発注するというスタンスでした。しかし、課題が高度化・複雑化している今、行政だけで正解を導き出すことは不可能です。今私たちが目指しているのは、行政側が『実は今、こんなことに困っているんです』と、弱みや課題をさらけ出し課題を共有すること、そして仕様書の最初の一行から、民間の方々の知見を取り入れていくことです。この目線を合わせるプロセスこそが真の共創であり、そこからしか本質的な変革は生まれないと感じています」
こうした姿勢は、民間にとっても「行政が何を求めているか」が明確になり、自社の技術をビジネスとして着地させやすい環境を生み出しています。

〈4〉HIVEという「温度感」の合う場所で見つけたもの
官民共創を加速させる大きな要素として橋本氏が重要視しているのが、「何をやるか」よりも「誰とやるか」、です。その答えの1つとして、HIVEも注目すべき存在となっています。
橋:
「HIVEの最大の魅力は、そこに集まる方々の温度感です。多くの共創コミュニティがありますが、HIVEは特に参加者のモチベーションが高く、企業の看板を背負いながらも一人の人間として『何かを解決したい』という熱量を持った方が多い。私のような行政マンに対しても非常にフラットに、対等に接してくださるほか、業種を超えたイノベーターと悩みを共有し、刺激をもらうことができる。単なる情報交換を超えたコミュニティとして、参加する手応えを感じています」
〈5〉新たな拠点で、行政のあり方を示す
2026年、豊田市東京事務所は、多様な企業やスタートアップが集う赤坂エリアのシェアオフィス・コワーキングスペースへと拠点を移す。それは、従来の東京事務所の役割を超えた挑戦であり、今後の可能性を感じさせる取組でもあります。
橋:
「新拠点への移転を機に、東京事務所は既存の取り組みに加え、『民間との共創』へと活動領域を拡大します。これまでの役割であった国政の情報収集や中央とのネットワークという枠を広げ、より日常的に民間と交わり、新しい事業を共創していく──。そうして行政がさらにオープンになり、民間の力を最大限に引き出せるようになれば、自治体はもっと面白くなれるはずです。豊田市で生まれた好事例を他の自治体にも波及させ、日本全体をアップデートするような大きなうねりを作っていきたいですね」
「行政のあり方を変えることが、日本を面白くする」──。現場で磨かれた橋本氏の視線は、東京の拠点から、その先の未来を見据えています。



